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青森地方裁判所八戸支部 昭和35年(ワ)101号 判決 1961年10月30日

主文

被告は原告に対し金三〇四、七四九円也及之に対する昭和三三年八月三〇日以降完済に至る迄年五分の割合による金員を支払ふべし。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告指定代理人は主文第一、二項同旨の判決及仮執行の宣言を求め請求の原因を左のように述べ被告の主張を否認し甲第一号証同第二号証の一、二同第三号証の一、二同第四号証乃至同第一一号証を提出し乙第一号証を不知とし証人成田行市同庭田仁造の尋問を求めた。

「一、被告は昭和三二年四月以降貨物の運搬を業とする者である。

二、訴外蟹沢忠一は被告に傭はれて自動車運転をなす者なるが同三二年一〇月一五日八戸市小中野町字折本五一路上に於て普通四輪貨物自動車(青一―三三三〇)を運転中之を訴外庭田仁造に接触せしめよつて同人に対し右大腿骨複雑骨折、右肘関節部挫創、右上腕骨皹裂骨折等の傷害を与えた。

三、右傷害は訴外蟹沢の業務上過失に因つたものである。

四、訴外庭田は同三二年一〇月一五日より同三三年五月一六日迄八戸市八戸赤十字病院に入院加療しその間に要した費用は金一一八、六六五円也であつた。

同人は訴外丸元運輸株式会社の職員として就労不能のため同三二年一〇月二一日より同三三年五月一六日迄休業しその期間二〇八日間に得べかりし賃金は一日平均四四六円九七銭として金九二、九六九円也であつた。

医療により同人の負傷は一応治つたが右負傷の結果右下肢は膝関節の屈曲一三〇度伸展一七〇度足関節は背屈九〇度座屈一一五度の障害が残り右手指の最大屈曲は中指先と手掌面との距離は一、五cm迄可能、伸展正常、右手握力は三kgとなつて労働力が減少されたのでその損害額は労働者災害補償法(以下法と称する。)施行規則別表第一を基準とすれば同人の身体障害の等級は七級に該当するので金二五〇、三〇五円也となる。

それで同人は合計金四六一、九三七円也につき訴外蟹沢の使用主たる被告に対し損害賠償請求権を有することになつた。

五、右丸元運輸株式会社は法による保険加入事業場であり同人は会社の業務執行中に前記傷害を受けたので原告は同人に対し右事故による保険給付として金三〇四、七四九円也を同三三年八月二九日に支払つた。

その内訳は前記得べかりし賃金九二、九六九円也の六割の労災補償額金五五、七八一円より被害者が自動車損害保険より金十万円也被告より金二〇、〇〇〇円也受領したので八戸日赤病院支払額一一八、六六五円也を控除した金一、三三五円也を差引きたる金五四、四四六円也及障害補償費二五〇、三〇三円の合計である。

それで原告国は法第二〇条第一項に基き訴外庭田が被告に対して有する損害賠償請求権中右保険金給付相当額金三〇四、七四九円也の範囲で損害賠償請求権を取得したのである。

六、よつて原告は被告に対し右金三〇四、七四九円也及原告の保険給付の日の翌日である昭和三三年八月三〇日から完済に至る迄年五分の割合による金員の支払を求める。」

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。」との判決を求め請求の原因に対する答弁を左のようになし乙第一号証を提出し甲各号証の成立をみとめ証人蟹沢忠一同佐々木由美同大沢多喜男被告本人の尋問を求めた。

「い、請求原因事実中訴外蟹沢忠一が普通四輪自動車を訴外庭田仁造に接触せしめて之を傷害せしめたことは認めるがその他の事実は否認する。

ろ、訴外蟹沢忠一は昭和三二年一〇月二一日訴外庭田仁造(被告が準備書面で訴外蟹沢忠一としているのは誤記とみとめる)と同人の訴外蟹沢忠一より受けた傷害につき示談契約をしたのであるから同人は法に基く損害賠償請求権を放棄したものであつてその後になつて同年八月二十九日国が同人に対して補償をなしても国は被告に対し損害賠償請求権を取得することはできない。」

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